第1章:【男性編】糖尿病で性機能障害が起こる原因

1−1 糖尿病で性機能障害が起こる原因@:薬剤性勃起障害(全体の約3%)

1−2 糖尿病で性機能障害が起こる原因A:血管障害による勃起障害

1−3 糖尿病で性機能障害が起こる原因B:神経障害による勃起障害


第2章:【男性編】勃起障害の治療法

2−1 治療法@:薬による治療(バイアグラ、レビトラ、シアリスなど)

2−2 治療法A:陰圧式勃起補助具

2−3 治療法B:陰茎プロステーシス


第3章:【女性編】性生活の改善法

3−1 糖尿病と性生活の関係

3−2 改善法

3−3 糖尿病女性の妊娠と出産


第1章:糖尿病で性機能障害が起こる原因


1−1 原因@:薬剤性勃起障害(糖尿病による勃起障害全体の約3%)

糖尿病が原因となって、男性の性機能、特に勃起機能に障害が起こることを、「糖尿病性勃起障害」と言います。

糖尿病性勃起障害は、一般に糖尿病による血管障害や神経障害、代謝の異常を原因として起こります。

しかし、これらに加えて、心理的な要因、薬の副作用などが複雑に絡み合って生じることも多いです。

糖尿病性勃起障害のうち、薬の副作用によるものは、「薬剤性勃起障害」と呼ばれています。

降圧利尿薬や抗精神病薬、吐き気止め、ホルモン薬などの薬剤には、勃起能力や射精能力を低下させる働きがあります。

薬剤性勃起障害は薬の副作用によって生じるものなので、原因薬剤の変更や服用の中止によって、勃起機能を回復させることが可能です。


1−2 原因A:血管障害による勃起障害


糖尿病は、しばしば血管の壁が厚くなる「動脈硬化」を引き起こします。

この動脈硬化による血管障害が原因となって、様々な臓器の血液循環が悪化します。

勃起は、陰茎内部の海綿体に血液が流れ込むことで生じるのですが、血管の動脈硬化によって陰茎に送られる血液が不足すると、勃起までに長い時間がかかるようになったり、勃起しても十分に陰茎が固くならなくなる症状が生じます。

末梢血管の血流障害を抱えている男性糖尿病患者の半数近くが、勃起障害を抱えていると考えられています。


1−3 原因B:神経障害による勃起障害


糖尿病は、血流の障害だけでなく、自律神経の障害も引き起こします。

陰茎と膀胱は同じ自律神経によって支配されていますが、膀胱に尿がたまっても尿意を感じない、または排尿ができないといった膀胱機能障害があるときには、陰茎の神経にも異常が生じていると考えられます。

同様に、下痢や便秘などの排便障害があるときも、陰茎の神経に異常が見られることが多いです。

勃起障害を認めている糖尿病患者の8割以上に、精密検査で膀胱機能障害が見出されたという報告もあります。


第2章:勃起障害の治療法


2−1 治療法@:薬による治療(バイアグラ、レビトラ、シアリスなど)

糖尿病の合併症を克服するには、血糖値を下げて病気をコントロールし、神経障害や血管障害の発症や進行を防ぐ以外に方法はありませんでした。

しかし、勃起障害に関しては、クエン酸シルデナフィル(商品名:バイアグラなど)の登場により、その治療に劇的な進歩が起こりました。

バイアグラは、1998年にアメリカで承認された勃起障害の治療薬です。

ペニスへの血流量を増大させることによって、性的刺激時に勃起を生じさせ、その状態を維持できるようにする効果があります。

心因性、血管障害・神経障害を問わず有効な治療薬であり、糖尿病患者の約60%に治療効果が認められたという報告があります。

バイアグラ自体には、性欲増強作用や催淫作用は、全くありません。

そのため、内服しただけでは、いつまで待っても勃起は起こりません。

必ず視覚的・触覚的・聴覚的な性的刺激を併用することが必要になります。

なお、バイアグラは勃起障害の治療には非常に有効ですが、射精障害には効きません。

心疾患を有している場合、バイアグラの使用によって重篤な合併症を引き起こすことがあるので、服用前に必ず医師の診断を仰いでください。

男性糖尿病患者の場合、勃起が可能になれば、挿入行為を伴う性行為が可能になり、それが生活意欲や自尊心の回復につながります。


2−2 治療法A:陰圧式勃起補助具


「陰圧式勃起補助具」は、ペニスの神経や血流が損傷を受けた際に勃起を回復させる方法の一つで、厚生労働省の認可を受けた医療用器具です。

受傷や疾病が原因となる器質性のED(=勃起障害)、ストレスなどに由来する心因性ED、その両方が関わる混合性EDなど、いずれの症状にも治療効果が認められています。

ペニスを筒状のシリンダーに入れ、手動ポンプでシリンダー内を陰圧(低圧・真空)にして海綿体内に血液を呼び込み、根元をリング状のバンドで絞めて、勃起を持続させます。

実際のセックス中に使用するとムードが損なわれる、という問題はありますが、安全性・確実性が高く、副作用が少ないのがメリットです。

陰圧式勃起補助具は、空気圧を利用した物理療法なので、海綿体内に血液を運ぶ動脈血管に異常がなければ、勃起が可能です。

骨盤内のがん(前立腺がん・膀胱がん・直腸がんなど)摘出手術後や、脊椎損傷による麻痺など神経系の遮断がある場合でも効果を発揮します。

バイアグラなどの経口のED(=勃起不全)治療剤で効果がなかった方、もしくは服用中の薬が併用禁忌薬ゆえにED治療薬が使用できない方、薬剤には頼りたくないという方も、安心して使用することができます。

ただし、器具の使いはじめには、陰茎バンドによる疼痛、皮下出血に伴う痛みが生じる場合もあります。

また、この器具はゴムバンドで陰茎の血流を止めるため、30分以上使用することができません。

勃起の質が「冷たい勃起」になるため、これがパートーナーの不満になる可能性もあります。

現在日本で使用されている陰圧式勃起補助具は、アメリカのベトコ社製の「ベトコ」、ツムラ社製の「リテント」、快生薬研「VCD式カンキ」などです。

これらは保険適用外の器具のため、購入する場合は全額実費(3〜5万円程度)となりますが、医師の処方箋は不要です。


2−3 治療法B:陰茎プロステーシス


「陰茎プロステーシス」は、ペニスにシリコン棒を埋め込み、勃起状態を実現させる手術です。

現在に至るまで数多くの手術が行われてきており、永久的な勃起障害に対する最も有効な治療法の一つです。

「半固定式」と「膨張式」の2種類があり、「半固定式」の場合は、ペニスは常に約80%の勃起状態のままになります。

シリコンの中には針金が通っているので、セックス以外の時には、ペニスを上や下に折り曲げて、目立たせなくすることが可能です。

他方、「膨張式」の場合は、シリコン棒をポンプで伸縮させることができるため、ペニスの固さを自由に調整できます。

いずれの手術も、術後感染の可能性は1〜2%で、術後の痛みもほとんどありません。平均入院期間は1〜2日程度です。

ここで注意していただきたいのは、陰茎プロステーシス手術は、あくまで機械的にペニスを勃起させるだけの手術である、ということです。

この手術では、性欲の低下やオーガズム障害といった、セックスにまつわる他の問題を解決することはできません。

そのため、陰茎プロステーシス手術をしたからといって、これまでうまく行っていなかったパートナーとの性生活が素晴らしいものに変わる、ということはありません。

こうした理由から、手術前には、必ずパートナーや主治医とじっくり時間をかけて話し合うことを、強くお勧めいたします。


第3章:【女性編】性生活の改善法


3−1 糖尿病と性生活の関係

糖尿病は、女性の性生活にも、大きな影響を及ぼします。

血糖値のコントロールが困難になった場合、全身の疲労感や脱力感、頻尿やのどの渇きなどによって、性生活への関心が失われます。

高血糖の状態が長く続くと、その影響は女性の生殖器にも様々な形であらわれます。

血糖を十分にコントロールできないまま、長期間が経過してしまうと、女性ホルモンの分泌レベルが低下し、膣内の潤滑不足を引き起こして、性交が困難になります。

これに併せて、生理不順や生理停止も起こります。

女性器周辺の末梢神経が損傷してしまい、性交痛やオーガズム不全の症状が出る場合もあります。

カンジダ症(=性器の表面で真菌が異常増殖し、外陰部や膣に炎症を引き起こす病気)などの感染症に罹りやすくなることも、特徴です。

また女性の糖尿病患者は、性交後に低血糖になることもあるので、注意が必要です。


3−2 改善法


最も大切なことは、血糖値を正常にコントロールして、性生活に影響を及ぼす症状を引き起こす原因を取り除くことです。血糖値のコントロールに成功すれば、性的な欲求は回復するとされています。

肥満状態の女性であれば、血糖値をコントロールして肥満を解消することによって、パートナーの男性の目から見た性的魅力を向上させることができるでしょう。

膣内の潤滑不足に対しては、市販のローションやジェル、潤滑オイルなどを用いることで、問題を解決することができます。

生理不順や生理停止については、薬の服用によって生理周期を回復できることもあるので、医師の指示を仰いでください。女性ホルモンの分泌を高めるための薬剤の処方を受けることも可能です。


3−3 糖尿病女性の妊娠と出産


女性の妊娠と糖尿病の関係は、妊娠糖尿病=「妊娠中の発症」と、糖尿病患者の女性が妊娠する「発症後の妊娠」の2つに分けられます。

このうち、前者の妊娠糖尿病については、妊娠中毒症や羊水過多症、早産・流産、巨大児や発育遅延などを引き起こす危険性がありますが、食事療法や運動に気を遣っていれば、問題なく出産できるケースが多いです。妊娠糖尿病では、多くの場合、出産後に症状は消滅します。

他方、後者の「発症後の妊娠」については、大きなリスクが伴います。

従来は、糖尿病患者の女性が「発症後」に出産することは、不可能だとされてきました。

これは、妊娠によって母体の糖尿病合併症が悪化する危険があったためです。

妊娠糖尿病と比較しても、「発症後の妊娠」は、妊娠中と出産後に起こるリスクが大きくなります。

現在においては、医療の進歩によって、女性の糖尿病患者の出産も可能になっています。

ただし、妊娠〜出産に関しては、糖尿病合併症が悪化するリスクを承知の上で行うことを家族と十分に話し合い、医療チームとの協力によって、血糖値のコントロールと糖尿病の治療を徹底して行う、ということが必要になります。


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