序章:統合失調症の基本情報

統合失調症とは、幻覚や妄想などの症状が出ることによって、日常生活に困難をきたすようになる精神疾患です。有病率は、人口の0.5〜2%程度と、非常にありふれた病気です。

発病率に性差は無く、厚生労働省の患者調査によると、全国で76万人程度の患者がいると推測されています。

旧来は「精神分裂病」と呼ばれていましたが、「精神分裂」という病名によって患者や家族が受ける社会的な偏見・差別が増長される、という理由から、2002年から「統合失調症」へと名称が変更されました。

統合失調症の発症原因に関しては、遺伝要因や環境要因、脳の機能障害やストレスなど、様々な仮説が提唱されていますが、現時点でははっきりと分かっていません。

治療方法としては、抗精神病薬による薬物治療が主に行われています。しかし、根本的な治療法は、未だ開発されていません。

DSM−W(アメリカ精神医学会が発行している「精神障害の診断と統計マニュアル」)による統合失調症の分類は、以下の通りです。

●破瓜型(はか) :思春期〜青年期(15〜25歳)

主として10代で発症し、徐々に進行する。

陰性症状(感情や意欲の低下)が主で、思考障害が著しい。妄想や幻覚は、あまり顕著ではない。

自閉、閉居(ひきこもり)、独語、空笑いが多い。
難治性であり、予後は一般に悪い。

●緊張型:

20歳前後で急激に発症し、慢性的に進行することが多い。

非常に緊張・興奮した状態(緊張病性興奮)と、動きが極端に少なくなる状態(昏迷)を繰り返す。

拒絶症、硬直、無言、無動が多い。

薬物治療の効果が高いため、予後は比較的良好。完治することもある。

●妄想型:

統合失調症の中で、最も患者数の多いタイプ。発症の時期は、おおむね30代以降〜と遅い。

陽性症状(幻覚、妄想)が主症状であり、人格の崩壊や、言動の解体は少ない。

予後は様々だが、高年齢で発症した人ほど治療成績が良く、特に中年女性の予後は良好な場合が多い。


第1章:【統合失調症患者の性機能障害】・・・薬の副作用による性機能障害

1−1 抗精神病薬が性機能に及ぼす副作用:タイプ別一覧

統合失調症患者は、病気の症状、あるいは服用している抗精神病薬の副作用として、性欲が低下することがあります。

抗精神病薬は、大きく分けて、「定型タイプ」と「非定型タイプ」の2つに分類されます。

各タイプ別の性機能に関する副作用は、以下の通りです。

@定型タイプ・・・急性期の陽性症状(幻覚、妄想、興奮など)に効果のある薬

フルフェナジン(商品名:フルメジン)では、月経異常や乳汁異常が生じる場合があります。

A非定型タイプ・・・陰性症状(意欲の低下、感情の平板化など)に効果のある薬

非定型タイプのリスペリドン(商品名:リスパダール)やオランザピン(商品名:ジプレキサ)などの薬では、男性では射精・勃起障害や逆行性射精(射精する感覚はあるが、精液が出てこないこと)、女性では生理不順やオーガズム不全、といった副作用の出る場合もあります。

同じく非定型タイプのスルピリド(商品名:ドグマチール)では、男性でもおっぱいが大きくなったり、女性では生理が止まって母乳が出るなど、妊娠中と同じような反応(「高プロラクチン血症」と呼ばれる症状)が出ることもあるようです。

一方、新世代の抗精神病薬であるアリピプラゾール(商品名:エビリファイ)では、性機能不全が起こりにくく、逆に性欲亢進効果がある、という報告もあります。

同様に、フマル酸クエチアピン(商品名:セロクエル)でも、性機能障害が起こりにくいとされ、こちらも性欲亢進効果があると言われています。

いずれも、服用量や体調、環境等によって薬の効果は変わるので、一概に言うことはできません。

薬の量を調整することで性欲の低下を緩和できる場合もあるので、恥ずかしがらずに主治医に相談することが大切です。


1−2 その他の主な副作用(持続勃起症と月経停止、乳汁分泌)

男性の場合、薬の副作用で、ごくまれに「持続勃起症」=陰茎が勃起したままで痛みを伴う症状が起こる場合があります。この場合は、速やかに泌尿器科を受診してください。

女性の場合、薬の服用を増やすことによって、月経が停止することがあります。

月経の停止は女性にとって深刻な問題であり、薬への不安感を呼び起こす問題でもあります。

しかし、月経の停止によって子宮や卵巣が萎縮することは少なく、女性としての性機能が著しく低下することはありませんので、過度に心配する必要はありません。

不安な場合は、主治医と相談の上、薬の量を減らすなどの対処法をとってください。

また、乳汁分泌も女性によくある副作用ですが、基本的に身体的な心配は要りません。

生活に不便を感じるようでしたら、主治医に相談してみてください。


第2章:【統合失調症患者の妊娠・出産】・・・抗精神病薬と妊娠の関係

2−1 妊娠〜出産中の注意点

まず、統合失調症は遺伝病ではないため、「生まれてくる子どもは、親と同じように、必ず統合失調症になる」というようなことは、一切ありません。

遺伝については、本人や周囲の不安を解消するために、改めて主治医から説明してもらうほうがよいでしょう。

抗精神病薬の大半は、催奇形性(=奇形児の生まれる危険性)はほとんどありません。

しかし、薬の種類によっては、胎児に影響を与える危険性のあるものも、存在します。

薬の種類によって、影響内容・程度の差はありますが、基本的に抗精神病薬の中で「胎児への影響は、全く無い」と、100%断言できるものは、存在しません。

よって、妊娠・出産を考えている場合は、主治医や産婦人科医と事前に相談しながら、計画的に行うことが大切です。

また妊娠の時期によって、薬が胎児に及ぼす影響の強さや内容も異なります。

特に、妊娠4週〜15週目の間は、体の各器官が作られる時期であり、最も薬の影響を受けやすい時期です。

薬の種類によっては、胎児に奇形を生ずる危険性もあります。

既に体の各器官ができあがっている時期(妊娠16週目〜)に関しては、奇形の生じる可能性は減ります。

しかし、薬によって、胎児の各臓器の機能への影響が生じる可能性もあります。

現実的な問題として、胎児に対する薬のリスクよりも、病気のリスクの方が大きい場合があるため、胎児への影響がある薬でも、妊娠中に飲みつづけなければならないこともあります。

その場合でも、薬の悪影響を避けるために、必要最低限の量に調節してから妊娠するのが一番です。

繰り返しになりますが、統合失調症の女性が妊娠・出産を望む場合は、決して不用意に妊娠したり、自己の判断で勝手に薬の服用を中止したりするのではなく、主治医や産婦人科医に事前に相談しながら、計画的に行うことを、強くお勧めします。


2−2 出産直前〜出産後の注意点

出産直前の1週間は、できるだけ薬の服用を少量にし、もし可能であれば、服用を一時的に止めることも検討してください。

睡眠薬等の影響で、赤ちゃんが眠ったまま生まれてくるケースもあります。

もちろん、薬の量を減らしたり、服用を停止する場合は、必ず主治医に相談してください。

出産後は、統合失調症の症状が再発しやすい時期になります。

慣れない育児や睡眠不足などでストレスの溜まりやすくなるので、すぐに薬の服用を再開します。

なお、薬の成分が子どもに影響を与える可能性があるので、母乳を与えることは控えてください。

ミルクで育てた場合でも、子どもが母親の愛情不足から情緒不安定になる、といったことは一切ありません。


「統合失調症患者の性」に関する参考文献

春日武彦 『専門医が答えるQ&A 統合失調症』(2007年・主婦の友社)

春日武彦 『よく分かる最新医学 新版 統合失調症』(2008年・主婦の友社)

遠山照彦 『統合失調症は どんな病気か どう治すのか』(2005年・萌文社)


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